治療が必要な痛み、治療によって改善する痛みとは
ここで、痛みの治療が必要となる痛みとはどんな痛みなのか考えてみます。
痛みを訴えて病院を受診される患者さんの多くは、外傷などに伴う明らかな組織損傷の既往がなく、痛む部位に発赤・腫脹・熱感を認めす、また、痛みが慢性化して長期間続いていたり、何回も繰り返している、そのような痛みではないでしょうか。このような痛みはまず侵害受容性疼痛の可能性はありません。もし外傷の既往があったとしても2週間以上経過し、痛む部位に発赤・腫脹・熱感を認めなければ、侵害受容性疼痛ではないでしょう。
侵害受容性疼痛でなければ、もう一方の神経障害性疼痛でしょうか。しかし、外傷や脳梗塞による神経損傷を起こすような既往がなければ神経障害性疼痛の可能性は低く、たとえ神経障害性疼痛であったとしても治療法はありません。
では、このような痛みは一体どんな痛みでしょうか。おそらく一般的には、急性炎症の所見がない場合、神経障害性疼痛と考えられて、その原因を見つけるためにCT検査やMRI検査が行われます。検査で神経の圧迫・絞扼などの異常所見が見つかると、それが原因で起こっている神経障害性疼痛の診断が下されるでしょう。その結果手術が行われるかもしれません。しかし、先ほど述べたように、神経の圧迫・絞扼で神経障害性疼痛は起こりません。一方、神経の圧迫・絞扼などの異常所見が見つからない場合は、原因不明とされ、手術をするわけにもいかないので、診断がつかないまま、保存療法として硬膜外ブロックや薬物療法がなされるでしょう。しかし、これらの薬物療法はあくまで対症療法ですし、そもそも効果がないものが存在します。また効果があっても繰り返し行うことによって効果は消失します。
このように、現在考えられている痛みの分類に従った診断方法では、不都合なことが起こってきます。
そこで私は、痛みの発生メカニズムに基づく分類に、侵害受容器が感作されることによって起こる筋膜性疼痛という痛みを加えることを提唱します。(図3)(参1)
(図3)
(参1)解剖・動作・エコーで導くFasciaリリースの基本と臨床
木村 裕明 編集主幹 文光堂 p.7