3.侵害受容性疼痛(炎症性疼痛)
侵害受容性疼痛は、侵害受容器を介して発生する痛みで、炎症性疼痛とも呼ばれますが、痛みを発生させる炎症は急性炎症であり、慢性炎症では一般に痛みは起こりません。急性炎症とは、外傷、膠原病、感染などによる組織損傷と、それに引き続いて起こる損傷部位の修復反応です。損傷部位に必要な物質や細胞を供給し、修復や感染防御を行なうため、血管拡張と血管透過性亢進(血管壁の細胞間の隙間が拡がること)が起こり、発赤・腫脹・熱感が生じます。痛みは、急性炎症によって発生する発痛物質が侵害受容器を刺激することにより組織が損傷された部位に起こります。そして、組織の修復が完了すると、急性炎症は終息し、それに伴い侵害受容性疼痛も改善します。すなわち、痛みの原因である急性炎症を治すのは自らの身体であり、治療を必要としない痛みです。したがって、捻挫・打撲、骨折のような外傷や関節リウマチのような自己免疫疾患に伴う急性炎症による痛みは、必要時に対症療法として消炎鎮痛剤を投与することしかありません。
骨折の場合に行われる手術は、運動機能障害を回避する目的で行われる整復・固定術ですから、痛みの治療と直接関係ありません。開放性の外傷は縫合術を行いますが、これも痛みの治療と直接関係ありません。蜂窩織炎のようなバクテリアが組織を損傷する場合は抗生物質を投与しますが、これは炎症の拡大や敗血症の誘発を防ぐ目的で行われ、痛みの治療というわけではありません。
侵害受容性疼痛の中には、心筋梗塞、大動脈解離、頭蓋内出血、穿孔性胃潰瘍、腹膜炎などのように、緊急に適切な処置をしないと生命にかかわる疾患もありますが、これらの痛みは切迫感のある強い痛みであったり、強い息切れがあって歩けなかったり、意識障害や麻痺などの神経症状がでたり、腹部の筋が固く触れたり(筋性防御という)、という、強い痛みと共に切迫した症状を伴います。
このように、組織損傷とその修復反応である急性炎症による痛みは、一度発症すると修復が終わるまでの1週間~10日間は侵害受容性疼痛という痛みが続き、痛みが強い時に対症療法として消炎鎮痛剤を投与する以外に治療法はなく、組織の修復が終わることにより痛みは改善するため、治療の必要がない痛みということができます。